問い合わせメールは、振り分け・要約・返信の下書きまでAIに任せられます。別府市の実証結果、3段階の進め方、プロンプト例、送信を人に残す理由を解説します。

問い合わせメール対応をAIで自動化する方法|3段階と導入事例

問い合わせメールの対応は、AIで「振り分け」「要約」「返信の下書き」まで自動化できます。ただし、返信の送信まで完全に任せるのはおすすめしません。間違った案内や約束をしてしまうと、取り消すことが難しいからです。大分県別府市の実証では、登録した情報から回答した75件のうち70件(93.3%)が正しい回答でした。この記事では、問い合わせ・メール対応をAIで自動化する3つの段階、その実証の結果、始める順番、そして法人研修で教える内容を、非エンジニアの方向けに整理します。

問い合わせ・メール対応はAIでどこまで自動化できる?

結論から言うと、問い合わせ対応のうち「届いたメールを種類ごとに分ける」「長いメールを要約する」「返信の下書きを作る」はAIに任せられます。決まった質問に決まった情報で答えるだけなら、チャットボットで自動回答することもできます。

一方で、値引きや納期の約束、クレームへのお詫び、契約に関わる回答は、人が判断して送るべき内容です。問い合わせ対応の自動化は「AIが担当者の手元に、整理されたメールと返信案をそろえる」ところまでを目標にすると、失敗が起きにくくなります。

メールは毎日届き、件数も多い業務です。1通あたりの短縮は数分でも、件数を掛けると大きな時間になります。そのため議事録と並んで、社内でAI活用を始めるときの最初の題材に向いています。

自動化の3段階:振り分け・下書き・自動回答

問い合わせ対応の自動化は、振り分け・要約、返信の下書き、決まった質問への自動回答の3段階に分けられます。

振り分けと要約、返信の下書き、決まった質問への自動回答という3段階。段階が上がるほど事前の準備と確認の仕組みが必要になる

問い合わせ対応の自動化は、次の3段階で考えると整理しやすくなります。段階1ほど始めやすく、段階3ほど準備が必要です。

段階

AIがすること

人がすること

1. 振り分け・要約

メールを「質問・注文・苦情・営業」などに分け、要点を短くまとめる

分け方の基準を決め、分類の誤りを時々確認する

2. 返信の下書き

過去の回答やよくある質問をもとに返信案を作る

内容を確認・修正し、自分で送信する

3. 決まった質問への自動回答

登録した情報の範囲で、チャットボットなどが直接答える

登録する情報を管理し、答えられなかった質問を人が引き取る

多くの会社では、段階1と2から始めるのが現実的です。段階3は、答えの元になる情報を整え、間違えたときの対応を決めてから取り組みます。

AIで問い合わせ対応を自動化した事例は?別府市の実証結果

大分県別府市は、生成AIでメールの振り分けと要約を行い、子育ての質問に答えるチャットボットも試しています。2024年6月時点の資料で、次のように報告しています。

  • メールの振り分けと要約:市に届いた意見・問い合わせのメールを、生成AIと定型作業の自動化ツール(RPA)を組み合わせて「意見・質問・営業」に分類し、100文字程度に要約しています。アンケートの自由記述の分類では、2週間かかっていた作業が2日で終わった例があると報告しています。
  • 子育てのチャットボット(実証):市の情報約180件を登録したデータベースから、生成AIが回答する仕組みを試しました。2024年3月の実証では、139回の利用のうち回答できたのは75件で、そのうち正しく回答できたのは70件(93.3%)、不十分な回答は5件、完全に誤った回答は0件でした。回答できなかった64件のうち22件は子育て分野ではない質問で、42件は子育て分野の質問でした。利用139回全体で見ると、正しく答えられたのは約半数です。

この実証では、登録した情報の範囲で回答し、職員が日々回答を調整する運用のもとで、完全な誤りは0件でした。その代わり、登録していない質問には答えられません。答えられなかった質問は人に引き継ぎ、よく聞かれるものから情報を足していく運用が欠かせません。別府市も、回答の理由を職員が確認でき、回答を職員が修正できる仕組みにしたと説明しています。

この事例を企業に当てはめると、最初の一歩は「すべての問い合わせにAIで答える」ことではありません。別府市が子育て分野に絞って試したように、まずは件数が多く、答えが決まっている分野を一つ選びます。そして、答えられた割合、正しかった割合、答えられなかった質問の中身を記録します。この記録が、次に足すべき情報の一覧になります。

AIに問い合わせ対応させる前に何を準備する?

準備するのは、よくある質問と回答の一覧、答えてはいけないことの一覧、引き継ぎのルールの3つです。AIの返信案の質は、元になる情報で決まります。

  1. よくある質問と回答の一覧:過去3か月ほどのメールから、多い質問を20〜30個書き出し、正しい回答を付けます。
  2. 答えてはいけないことの一覧:値引き、納期の約束、個別の契約条件、法律の判断など、AIの下書きに含めないことを決めます。
  3. 引き継ぎのルール:苦情、緊急、判断が必要な問い合わせを、誰に回すかを決めます。

質問に関係する社内の資料を検索し、その内容をもとにAIに回答を作らせる仕組みは「RAG(検索拡張生成)」と呼ばれます。仕組みを詳しく知りたい方はRAGとは?社内データで作る「自社専用AI」入門をご覧ください。

返信下書きのプロンプト(指示文)の例

研修で配る、返信下書きの指示文の型の例です。

あなたは当社の問い合わせ担当です。
次の「問い合わせメール」に対する返信の下書きを作ってください。

# 参考にする情報
- 添付の「よくある質問と回答」だけを根拠にする

# 守ること
- 参考情報に無いことは書かず、「担当者が確認してご連絡します」とする
- 値引き・納期・契約条件については約束しない
- 苦情や緊急の内容なら、下書きの冒頭に【要対応】と書く
- 最後に「確認が必要な点」を箇条書きで添える

最後の「確認が必要な点」を書かせるのがポイントです。担当者は返信案を頭から読み直さなくても、AIが自信を持てなかった部分から確認できます。

業種・部署別の使い方の例

同じ問い合わせ対応でも、業種や部署によってAIに任せやすい部分は変わります。代表的な例を整理しました。

業種・部署

よくある問い合わせ

AIに任せやすいこと

ネット通販

配送状況、返品・交換の方法

手順の案内文の下書き、注文番号の有無の確認

BtoBの営業

資料請求、見積もりの依頼

問い合わせ内容の要約、担当者への振り分け、お礼メールの下書き

士業・サービス業

料金、相談の予約、必要書類

公開済みの料金表や必要書類の案内(個別の判断は人が行う)

総務・情報システム

社内の手続き、パスワードの再設定方法

社内規程や手順書をもとにした回答案

どの業種でも共通するのは、「公開してよい情報で答えられる質問」から始めることです。個別の契約や事情によって答えが変わる質問は、要約と振り分けまでにとどめ、回答は人が行います。

効果はどう測る?

効果は「件数×1件あたりの時間」で考えると分かりやすくなります。たとえば、1日に20通の問い合わせがあり、1通に平均10分かかっているなら、1日200分です。AIの返信案を確認して送る形に変えて1通5分になれば、1日100分、月20日の営業なら約33時間の差になります。

この計算は例であり、実際の時間は問い合わせの内容で大きく変わります。導入前の1週間で「件数」「1通あたりの時間」「担当者が返信案を直した回数」を記録しておけば、導入後に効果を比べられます。直した回数が減らない場合は、よくある質問の一覧や指示文が原因になっていることがあります。まず一覧と指示文を見直しましょう。

AIテックベースの運営での使い方

AIテックベースの運営者も、届いたメールの確認と一覧づくりをAIに任せています。AIが新着メールを読み、番号を振った一覧にして要点を添えるところまでを行い、どれに返信するか、何と書くかは人が決めています。番号が付いていると「3番は返信不要」「5番は明日対応」のように短い指示で処理を進められ、確認の漏れも減りました。返信の判断を人に残したまま、読む時間を減らすことから始めるのが、無理のない入り方だと感じています。

法人研修では何を教える?

研修では、件数の把握、よくある質問の一覧づくり、指示文の作成と試行、返信案の採点、研修後の運用決めの5つを教えます。実際のメールに近い題材で練習すると効果が出やすい業務です。

  1. メールの種類と件数を数える:1週間分の問い合わせを種類ごとに数え、どこから自動化するかを決めます。
  2. よくある質問の一覧を作る:受講者同士で、答えを確定できる質問と、人が判断すべき質問を分けます。
  3. 指示文の型を作って試す:個人情報を消した練習用のメールで、振り分けと返信案を作らせます。
  4. 返信案を採点する:「事実の誤り」「約束しすぎ」「言葉づかい」の3点で返信案を確認し、指示文を直します。
  5. 研修後の運用を決める:誰が返信案を確認して送るか、答えられなかった質問を誰が一覧に足すかを決めます。

研修全体の組み立て方は生成AI法人研修のカリキュラム例で紹介しています。

導入前に決めておきたい注意点

導入前には、個人情報の扱い、送信の方法、メールに紛れ込む指示への備え、担当者の負担の4点を決めておきます。

  • 個人情報の扱い:問い合わせには氏名・連絡先・注文内容が含まれます。入力データの扱いが明記された法人向けの契約を使い、社内ルールで入力してよい範囲を決めます。
  • 自動送信はしない:少なくとも最初は、AIの返信案を人が確認して送る運用にします。
  • メールに紛れ込んだ指示に注意する:受け取ったメールに「これまでの指示を無視して」などの文が紛れ込んでいる場合があります。完全に防ぐ方法はないため、メール本文は指示文と区切って渡し、AIに送信や外部の操作をする権限を持たせず、人が確認してから送ることで被害を抑えます。
  • 担当者の負担を見る:返信案の確認に時間がかかりすぎるなら、指示文やよくある質問の一覧を見直します。

メールに紛れ込んだ指示でAIを操る攻撃は「プロンプトインジェクション」と呼ばれます。詳しくはプロンプトインジェクションの解説をご覧ください。

よくある質問

Q. 返信までAIに自動で送らせてもよいですか?
A. 最初はおすすめしません。登録した情報だけで答えられる定型の質問に限り、答えられない質問を人に引き継ぐ仕組みを作ってから検討してください。

Q. チャットボットと生成AIは何が違いますか?
A. 従来のチャットボットは、利用者が用意された質問を選ぶ仕組みが中心でした。生成AIを使ったチャットボット(RAGの仕組みを使うもの)は、利用者の言葉で質問を受け止め、登録した情報から回答文を作れます。そのぶん、情報の範囲と確認の仕組みが重要になります。

Q. 小さな会社でも効果はありますか?
A. 効果が期待できます。担当者が1人でも、振り分けと返信案の作成をAIに任せるだけで、確認と送信に集中できます。まずは1週間の件数と1通あたりの時間を測ってください。

Q. AIが書いた返信は、お客様に冷たい印象になりませんか?
A. 指示文で言葉づかいを指定し、過去に評判のよかった返信を見本として渡すと、自社らしい文面に近づきます。最後に担当者がひと言添えるだけでも、印象は変わります。

Q. どのツールを使えばよいですか?
A. すでにメールの管理ツールを使っていて、AI機能が付いている場合は、そこから試すのが手軽です。使っていない場合は、法人向けの生成AIに指示文の型と回答一覧を渡す方法から始められます。

Q. GmailやOutlookでもできますか?
A. できます。メールソフトに付いているAI機能のほか、法人向けの生成AIに受信したメールを渡して返信案を作る方法や、自動化のツールで「受信したら返信案を作る」流れを組む方法があります。どの方法でも、送信は人が確認してから行います。

まとめ:送信ボタンは人が押す

  • 問い合わせ対応は、振り分け・要約・返信の下書きまでAIに任せられる
  • 値引き・納期・契約・苦情への回答は人が判断して送る
  • 別府市の実証では、職員が日々回答を調整する運用のもと、登録した情報から回答した75件のうち70件が正しく、完全な誤りは0件だった
  • AIの回答の質は、よくある質問と答えてはいけないことの一覧で決まる
  • 研修では、実際に近いメールで返信案を作り、採点して指示文を直すところまで行う

社員がAIを実務で使えるようになるまでの進め方は、AI法人研修のページでもご紹介しています。

参考資料

この記事を書いた人

野澤 孝理の横顔と上半身

株式会社curve

野澤 孝理

デジタルマーケティングを中心にClaude CodeやCodexを活用したサイト型LP制作、集客ツール設計、解析ツール導入や業務改善システムの構築等の集客×AIを掛け合わせた包括的支援を展開しております。

この内容を自社で相談する →